2015年09月07日更新
栄光の影で…『神奈川県で犬・猫殺処分ゼロを達成!!』に隠された大きな課題と闇【特別インタビュー】
『やっとスタート地点に立っただけ!』そう語ったのはKDP代表の菊池英隆さん。 保護犬の実態を知る為に、実際にシェルターにお邪魔して来ました。
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平成26年度、神奈川県動物保護センターに収容された犬と猫の殺処分がゼロに!
“神奈川県では、動物保護センターに収容された犬の殺処分が、平成25年度にゼロになったことを受け、昨年5月に犬の殺処分ゼロ継続を宣言し、ボランティアの皆さんと協働し、取組みを進めてきました。
この結果、平成26年度も、同センターに収容された犬の殺処分ゼロを継続することができ、さらに、同センターに収容された猫についても、初めて殺処分がゼロとなりました。”
引用:神奈川県ホームページ
皆さんは、この喜ばしい出来事をご存じでしたか?
私はこの事実を知った時にすごく嬉しく思い、神奈川県動物保護センターに取材を申し込みました。『喜ぶべき事は発信すべきだ』と確信して。
ですが、このゼロを達成したという素晴らしい記録の裏側には、私達が知らない課題が山積みだったんです。
『やっとスタート地点に立っただけ!』
そう語ってくれたのはボランティア団体KDP(KANAGAWA DOG PROTECTION)代表の菊池英隆さん。
今回、実際に犬を保護しているシェルターにお邪魔をしてお話を聞く事が出来ました。
ぜひ最後まで読んで頂けると嬉しいです。 -
殺処分ゼロについて
“殺処分ゼロ”っていう事実があった事によって、知事が『殺処分ゼロ宣言』をしてくれて、少しずついい方向に動き出だしてるのは事実なんです。
だけど僕は、スタート地点にようやく立てただけであって、現状はまだ全然解決されてないと感じています。
殺処分を減らす努力は、昔からずっと同じように皆続けているんですよ。
今回達成できた“殺処分ゼロ”は、センターの職員・ボランティアの連携・モチベーション・タイミングの歯車が“たまたま”合って出来ただけの事で、現況は、まだセンターには多くの犬がいて、殺処分が何百頭いた時と何ら変わりのない状態なんです。 -
殺処分ゼロ達成の裏事情
ボランティアが保護してブログで発信して、『目の見えない子を保護しました!かわいそう!』っていうのは、もうみんなが何十年もやっていて。
このままズルズル行くのはすごくいやだなぁって、ずっと感じていたんです。
そんなある年に、殺処分されたのが年間約90頭だった時があったんです。
そこで僕は、『今ここにいるのは約100頭。じゃぁ来年はここを200頭にすればゼロに出来るんだ!今しかない!』って思い、すぐに当時のセンター所長・Kさんに『僕が全部引き取るので、絶対殺さないで下さい!』って伝えに行ったんです。
県単位でゼロにした例がなかったので、達成すれば1つのキッカケとして、ニュースで取り上げられたり、もしかしたら何か変わるかもしれないって。
所長も最初は半信半疑だったみたいだったんですが、職員さんも、他のボランティアさんも含め、だんだんと共感してくれる人が増えてくれたおかげで、ゼロを達成する事が出来たんです。
なので実際は、無理矢理ゼロにしただけなんです。 -
殺処分ゼロの苦悩…
殺処分ゼロも、犬にとって時に残酷な場合もあるんですよ。
とにかく数字の『ゼロ』だけ考えると、センター内でもう立ち上がれなくてご飯を食べる事も出来ず、床ずれだらけ・ウジだらけな犬を、殺す事(安楽死)が出来ないんです。
殺処分『イチ』になってしまうから。
センター内で殺さずここに持って来ないといけないんですね。持ってきたその日のうちに、そのまま死んじゃった子もいっぱいいました。
達成する為に週に4~5頭連れてきて、多い時に週に3~4頭ここで死んでる時期も時もありましたし…
『ゼロ』という数字にみんな喜ぶんですけど、でも実は犬達が苦しまないといけない場合もあるんです。
なので、殺処分の数え方も、“安楽死”と“殺処分”は区別してカウントしないとダメなんですよね。
安楽死をさせた方がいいっていう判断を、時にはしなくてはならない場合も、もちろんあると思うし。
『日光に当たって空気を吸って、あぁ幸せだなぁ』って思う事がもう出来なくなってる犬達は、1秒でも早く眠らせてあげた方がいいなって思います。
そして、“殺処分”というのは、新しい飼い主が居れば明日から輝いて生活できる犬にも関わらず、やむを得ず息の根を止めてこの世からいなくさせる事を呼ぶべきだと僕は思います。 -
このシェルターにはどんな犬が?
僕は、最終的に一番余ってしまう犬、要するに殺処分対象になってしまう犬を専門に保護してます。
各ボランティアさんの得意分野があって、小型犬だったらいくらでも!って人だったりとか、純血が得意だったりとか色々あるんです。
だから、僕は他のボランティアさんと被らないような犬を選んで保護しています。
神奈川県は、ボランティア同士の連携や、上手くリズムがあったので“殺処分ゼロ”を達成できたのだと思っています。
――今ここに何頭ぐらい?
今は70頭弱ぐらいです。ちょうど神奈川県が殺処分ゼロを達成した時は倍の130頭ぐらいいました。 -
このシェルターを作ったきっかけ
元々小さい頃から犬・猫が好きだったんですが、実家を出て自分でペットを飼おうって思って、犬を3匹買ったんですね。
その時は、犬を飼う=ペットショップだと当たり前の様に思って。
それで、自分の責任で犬を飼い、犬との関係性が強くなる程、犬が大好きになればなる程、殺処分などの情報が入ってくる様になったんですよね。
だけど自分もまだ若かったし、やりたい事もあったので可愛そうと思う反面、見て見ぬふりをしてて逃げていたんです。
それから10年ぐらいは経ってしまったのかな。
『自分が見ない様にしている間にも殺される犬がいるのに…犬が好きなんて言えない。』
『結局は、自分の納めてる税金で犬を殺してるんだ…』
って想いが日に日に強くなって行き、楽しい事をしていても、何をしてても全く気持ちが満たされなくなって。
もちろん動物愛護も大切なんですが、僕は『犬を保護して助ける事』でしか“幸せ”を感じる事が出来なくなってしまったので、この道に入りました。 -
このシェルターでの一日
――ここでの1日って?
朝4時 お散歩
7時 ごはん
~フリータイム~
17時 お散歩
19時半 ご飯
フリータイムは各自のんびりして過ごしたりしてますね。
この間に僕らは、見学やお見舞いを行ったり、病院に行ったりしています。
――70頭毎日お散歩?すごいですね!
一回の散歩で15~25頭ぐらいのチームに分かれて行っています。
犬が犬に習って、集団で行ってもみんなしっかりしてるんですよ。笑
でもやっぱり、2・3頭で行った方が嬉しそうですけどね。
終らないからしょうがなくその頭数で行きますけど、本当はもっと少ない頭数で行ってあげたいですけどね。 -
どうやって生活を?
――ここで暮らしてる?
そうですね!このスペースは全部手作りで、僕はここで一緒に暮らしてます。夜中に何かあったら困るので。
それとは別に譲渡会等、手伝ってくれる方々はいっぱいいるので成り立っています。
――ご自身たちの生活費って?
NPOって2種類あって、“給料取るタイプ”と“取らないタイプ”があるんですね。
これは僕の考えなんですけど、ボランティアって言うのは、体動かす能力に対してのお金は必要ないと思っているんで、“お給料がないタイプ”を選んだんです。
そのかわり、24時間ここで見ていなきゃいけないんで、お散歩もすれば、お腹も減るし、ガソリン代もかかるし…
でも、事業に関わる部分は経費で落とせるので、入ってくるお金はないけど、生活はさせてもらってます。 -
自然に囲まれて、みんながいて…
見学に来た人達から、『自然もいっぱいあるし、友達もいっぱいいるし、ここにずっと居た方が幸せなんじゃないかしら』ってよく言われるんですが、全然そんな事ないんです。
こんな所にずっと居たら寿命はすごく短くなると思うんですよ。
精一杯出来る事はやってあげようと思ってるんですけど、普通の家庭とは絶対に違うから。
家族の中に1頭だけで飼われている犬がどんだけ幸せな事か。
ここにいるしかないから、いるだけなんですよね。
いくら犬が集団生活といっても、人に無理やり作られた集団の中にいるのではストレスが違うし、みんなそれぞれすごい我慢して生活してるんです。
ここにいる以上はセンターで殺処分を免れたとしても、かわいそうなのは一緒なんです。 -
この子達も譲渡会に?
そうですね。
新しい飼い主さんに譲渡する場面では、『ほんとにこの子だから、この家族に貰われてよかったな』っていうのがあるとすごい嬉しいですね。
殺処分される運命だった子を救ったとしても、結局この子達は人間がいないと輝けないんですよね。
新しく飼ってくれる人がいなかったら、死んでるのも同じなんで。
上から目線の意味じゃなくて、その犬が来た事によって、その家族が今よりもっと幸せにならないと意味がないから、マッチングにはすごく気を使います。 -
実は知られていない去勢の事
田舎の方に行くとまだ、動物病院に行くって言う習慣がなく、去勢に対する知識がないんです。
だから、田舎でちゃんと飼われている犬ってすごく幸せで、愛されているんですが、
子供が出来ても、『うちの子は悪い子ね』って、川に流しちゃったり・捨てちゃったりとか。
若い方からすると、『なんてこと言ってるんだ!!』って感じる人も多いと思うんですが、
本当に悪気が全くなく、子供を産まない様にする為にはどうすればいいかっていう知識がないんですよね。
だから、飼われている犬の2世3世が保健所に入ってしまう現状があるんです。
やはりそれを止めるには、ちゃんと去勢の必要性を伝える場が必要なんです。
都会的な外部の知識が入らないと現状は中々変わらないんです。
その知識を1日でも早く浸透させたいので、自治体や知識がある人がもっともっと情報を発信し続けて欲しいと思います。 -
協力したい!私達にも出来る事って…
――この現実を知って協力したいと思いました。
――ですが私には保護する事が出来ません。やはり寄付が一番嬉しいですか?
『毎月いくらあれば成り立つの?』ってよく聞かれるんですけど、本当の事を言っちゃうとお金なんていくらあってもいいんですよね。
もしお金が湧いて出てくるなら、もう1個シェルター立てられちゃうし、病院だってもっと頻繁に連れて行けるし、人だって雇う事が出来る。
なので、もちろんお金はすっごく大事なのは大前提として、
殺されてる犬がいるという事実を、自分の子供でも、友人にでも、少しでも多くの人に伝えて貰いたいし、知ってもらいたいですね。 -
何も出来ないんだったら金くれよ!というのは簡単。でも…
『何も出来ないんだったら金くれよ!』って偉そうに言うのは簡単なんですよね。
もちろん皆さんキツイ生活をしている中で寄付をして頂いてるんですよ、『自分じゃ出来ない分だから…』って言って。
それは本当に感謝する事であるのは揺るがない事実です。
だけど、すごく生意気な言い方なのを覚悟して言います!
僕は、『犬を商売にしてる人とか、もっとお金がある企業にスポンサーになって欲しい』と思います。
大きな会社がスポンサーになってくれる事で、『大きな会社でも恵まれない保健所の犬達に目を向けてるんだ』と。
一般の人に与える影響力ってすごいあると思うんですよね。
ここに犬がいる以上は、生活をしなければならないのでお金が必要ですから、寄付はすごくありがたいです。 -
今後、この子達が幸せに暮らせる為に…
生態販売について様々な意見があると思うんですけど、犬で商売をするって事に自体に対して、実は心から反対していなくて。
ペットショップで子犬をみて『かわいいな』って思うのは、誰でも当たり前に思う事だと思うんです。
だけど、消費者側はちゃんと正しい知識を持って『自分の責任で、飼う/飼わない』を選択すれば、捨てられる犬も、ずさんな繁殖業者も減るはずなんです。
そして、消費者の意識を変えられ人って多分、犬を商売をしていて知識がある人(獣医・トリマー・店員・トレーナー等)だと思うんですよね。
一番身近にいて、知識を持ってる人の話って説得力があるじゃないですか。
なので知識を持ってる人が、常にこの現状をみんなに発信してあげられる様になって欲しいと思います。
――消費者の意識を変えていくのには、時間がかかりそうですね…
もちろん根元を閉めなければ保護犬はあふれる一方なんで、法律から絞めて行かなければならない部分もあるんですよね。
犬を販売する側も、命を第三者に受け渡す義務・責任をしっかり考えて欲しい。
例えば、今はマイクロチップがあるので、捨てられた犬が○○のペットショップで売った犬だって分かった時は、法律でその場所に強制的に戻して最後までしっかり面倒を見ないといけない!とか。
難しい事だと思いますが、商売でやってるなら尚更、それぐらいの覚悟を持って命を取り扱ってほしいです。 -
殺処分ゼロ=捨てられる犬ゼロを目指して…
もし、自分の親・故郷などに動物の去勢についてまだ知らない人がいたとしたら、教えてあげて下さい。
そして、殺されかかっている犬がいるという事実を1人でも多くの人に伝えてください。
本当の目標は一刻も早くここKDPを潰せる事なんです!!
ここに犬が居なくなる事なんです!!
その目標をいつか達成するためにも、皆様にこの現状を知って頂き、殺処分ゼロ=捨てられる犬ゼロを目指して行きたいと思います。
KDP代表 菊池英隆
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特定非営利活動法人 KDP KANAGAWA DOG PROTECTION 神奈川ドッグプロテクション:
神奈川県動物保護センター公認ボランティア
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